現代日本語の中には、日常的にはあまり使われないものの、ビジネスや報道、文学作品などで目にすることのある言葉が存在します。
そのひとつが「跋扈(ばっこ)」です。
難読語の部類に入るこの言葉は、古典に由来しながらも、現代社会においても否定的な意味合いで頻繁に用いられています。
特に、政治や経済、犯罪に関するニュース記事では、「悪徳商法が跋扈する」などの表現として登場することも少なくありません。
本記事では、「跋扈」の基本的な意味から、語源、具体的な使用例、さらには関連する四字熟語や類義語までを体系的に解説し、語彙力の向上をサポートします。
「跋扈」とは?基本の意味と読み方

「跋扈」は、自由勝手に振る舞い、周囲を顧みずに勢力を広げる様子を表す否定的な表現です。
「跋扈」の読み方は「ばっこ」
「跋扈」は「ばっこ」と読みます。
この言葉は特に難読漢字として知られています。
新聞や評論記事など、やや堅めの文章で使用されることが多く、一般的な日常会話ではあまり見かけません。
「跋扈」の持つ語感からも分かるように、肯定的なニュアンスではなく、権力や悪意のある存在がはびこる様を象徴的に表現します。
語彙力のある書き手が文章を引き締めるために用いることもあります。
「跋扈」は肯定的な意味では使わない
「跋扈」は決してポジティブな意味では使いません。
悪質な勢力や不正な行為が、抑制されることなくのさばっている様子を指します。
そのため、「自由奔放」や「自主性がある」といった言葉とは意味が大きく異なります。
たとえば、制御できない悪の広がりを警告する文脈で多く登場します。
使用の際は、その否定的な性格をしっかり理解しておく必要があります。
現代社会でも使われるシーンとは
現代において「跋扈」が使われる場面は多岐にわたります。
例えば、「SNS上に偽情報が跋扈する」「悪徳業者が医療現場で跋扈している」など、現代社会の構造的な課題を強調するために使われます。
報道機関やコラムニストによる分析記事でも頻繁に見られる表現です。
「跋扈」の語源と由来を解説
「跋扈」という言葉は、中国古代の歴史書『後漢書』にその起源を持ち、漢字一字一字にも深い意味が込められています。
中国の歴史書『後漢書』から生まれた言葉
「跋扈」は、中国の歴史書『後漢書』に登場する表現です。
この書物の中では、権力を掌握し、自由勝手に振る舞う官僚や軍人の様子を描写する際に使われました。
特に後漢時代の混乱期に、権勢を誇った人物の行動を「跋扈」として表現したことで、この語が定着したとされています。
後に日本に伝来し、古典文学や漢文においても取り入れられました。
「跋」「扈」それぞれの漢字の意味
「跋」は「踏み越える」「踏みにじる」といった意味を持ちます。
一方、「扈」はもともと竹でできた囲い、つまり「枠」や「籠」のことを指す字です。
これらを組み合わせた「跋扈」は、本来「囲いを越えて跳ね回る」という様子を表現しており、制限を無視して自由気ままに行動することを意味します。
この比喩的な構造が、悪事がのさばる状態の描写に転用されるようになりました。
梁冀が「跋扈将軍」と呼ばれた背景
後漢書に登場する梁冀(りょうき)は、後漢末期の大臣であり、朝廷で絶大な権力を握った人物です。
彼は法を無視し、私利私欲のために権力を行使したため、「跋扈将軍」と揶揄されました。
この逸話は、「跋扈」という言葉が、正当な権威を脅かし、支配を試みる存在に対して使われる語であることを象徴しています。
このような背景により、跋扈という語は否定的な象徴語としての地位を確立しました。
「跋扈」の正しい使い方と例文

「跋扈」は文語的な印象が強い言葉ですが、使い方を誤らなければ現代のあらゆる文脈で活用できます。
会話や文章での使い方のコツ
「跋扈」は、勢力を増しつつ周囲に悪影響を及ぼす存在について述べるときに適しています。
特に、犯罪組織、不正行為、悪徳業者といったマイナスの対象に対して使うのが自然です。
文学的な表現としても使われるため、文章全体のトーンを考慮して使用することが大切です。
また、類義語と混同しないよう、「自由な行動」や「積極的な活動」とは別の意味であることを意識しましょう。
「跋扈」を使った例文
- 野良犬が路地裏を跋扈する様子は治安の悪化を象徴していた。
- SNSには誤情報が跋扈し、真実の見極めが難しくなっている。
- 黒幕の存在が裏社会で跋扈しているとの噂が絶えない。
ビジネスやメディアで使うときの注意点
ビジネスやメディアの場面で「跋扈」を使用する場合、その語感の強さに配慮が必要です。
読者や視聴者に不快感を与える可能性があるため、状況の深刻さや対象の悪質性を的確に伝える文脈でのみ用いるべきです。
また、公的な立場の相手に対して用いると名誉毀損につながるおそれがあるため、言葉選びには細心の注意が求められます。
正確な意味を理解し、責任を持って使うことが重要です。
四字熟語「跳梁跋扈」とは?
「跳梁跋扈」は、「跋扈」をさらに強調した表現であり、悪事が無制限に広がる様子をより強烈に描写します。
「跳梁跋扈」の読み方と意味
「跳梁跋扈(ちょうりょうばっこ)」とは、悪事や悪者が跳ね回るように自由勝手に振る舞い、勢力を増す様子を意味します。
この表現は、「跳梁=跳ね回る」「跋扈=勝手気ままにのさばる」という二つの動的な概念が合体し、特に手がつけられないほど蔓延した状態を指す四字熟語として使われます。
主に否定的な社会現象や治安の悪化を強調する際に用いられます。
「跋扈」と「跳梁跋扈」の違い
「跋扈」は単体でも否定的な意味を持ちますが、「跳梁跋扈」はさらに動きや勢いを強調した表現です。
たとえば、「悪徳商法が跋扈する」では広がりを示すにとどまりますが、「跳梁跋扈する」と言えば、それが制御不能であることを強調するニュアンスになります。
より強い警鐘を鳴らしたい文脈で選ばれるのが「跳梁跋扈」です。
その他の「跋扈」を使った熟語
「跋扈」を含む四字熟語には複数のバリエーションがあり、それぞれニュアンスが異なります。
「横行跋扈」「専横跋扈」などの意味と使い方
「横行跋扈」は悪人が好き勝手に振る舞う様子、「専横跋扈」は独裁的な支配や私的な権力の濫用を表します。
また、「飛揚跋扈」は抑制の効かない行動を意味し、「梁冀跋扈」は歴史的に特定人物の逸脱した振る舞いに由来します。
これらの熟語は、特定の状況や人物に対する批判的な分析として使われます。
政治的なコラムや歴史的分析において用いられることが多い表現です。
それぞれの違いと使い分けのポイント
「横行跋扈」は悪事が一般化している状況を指し、「専横跋扈」は一人または限られた集団が支配的立場にある状況を示します。
対して「飛揚跋扈」はその行為が派手で注目を集める様子に重点があり、「梁冀跋扈」は史実に基づく比喩的表現です。
使用時には文脈に合った語句を選ぶことが重要で、それぞれの言葉が持つ歴史的背景や意味の強さにも配慮すべきです。
「跋扈」の類義語とニュアンスの違い
「跋扈」は他にも似た意味を持つ語と関連しており、使い分けが文章の精度を高めます。
「横行」「蔓延」「猖獗」などの意味
「横行」は無秩序な行動の広がり、「蔓延」は病気や悪習の広がりを指し、「猖獗(しょうけつ)」は特に悪性の物事が激しくはびこる様子を意味します。
これらはいずれも「跋扈」と似た用法ですが、使われる対象や程度が微妙に異なります。
例えば「ウイルスが蔓延する」とは言えても、「跋扈する」とは言いません。
語感と文脈を考慮することで、より適切な表現が可能になります。
「はびこる」「のさばる」との違い
「はびこる」は中立的またはやや否定的な意味合いを持ち、植物や風習などにも使われます。
一方「のさばる」は「威張っている」というニュアンスが強く、人間の行動に対して使うことが多いです。
「跋扈」はこれらに比べて文語的かつ硬質であり、論評やコラム、学術的な文章に適しています。
状況や書き手の意図に応じて、使い分けることが求められます。
まとめ
「跋扈」という言葉は、否定的な意味合いを持つ熟語でありながら、現代の報道、ビジネス、評論など多様な場面で重宝されています。
その語源や類義語、関連する四字熟語を正確に理解することで、文章表現の幅が格段に広がります。
意味の強さと文脈を常に意識し、適切な場面での使用を心がけることが、語彙力と文章力の向上につながるでしょう。